地面を打つ雨が染みてゆきやがて地中に水の流れを作る、その循環をも描いたような音楽。配信のみでリリースされていた高木正勝による映画『静かな雨』オリジナル・サウンドトラックを、「穏やかな音楽」をコンセプトにしたセレクトCDショップ「雨と休日」の自主レーベルよりCD化。中川龍太郎監督作品『静かな雨』(2019年公開)は、音楽が流れる時間の比率が高い映画で、その多くは環境音と音楽の中間のようなサウンドです。主人公たちのまわりに生まれる物音がすでに存在感を持っていたことから、音楽を担当した高木正勝はその物音との調和を目指しました。プリペアドピアノ(弦に物を挟むなどして音色を変えるピアノ演奏技法)の音色が特徴的であり、物音あるいは雨音のようにも聞こえるそのサウンドが物語性を広げるように映画に添えられます。はっきりとしたリズムやメロディが無い前半から徐々に美しいメロディが増えていく後半という流れが、主人公たちの葛藤や相互理解、そして覚悟を表しているかのよう。近年のライヴ・アルバムのように感情をおおらかに発散させた作品とも、『マージナリア』シリーズとも、そしてアニメやドラマのサントラ作品ともまた違ったサウンドを聴ける本作。音響的な刺激がありつつも、1枚通して生活の中のBGMとして流すことができるでしょう。坂本龍一『トニー滝谷』や細野晴臣『銀河鉄道の夜』などと同じように「アルバムとしても聴けるサントラ」として評価されるべき作品です。CD化に当たり、ジャケットデザインは自らのアルバムの他に森ゆに、田辺玄のCD作品のデザインなども手掛ける青木隼人が担当。映画のスチール写真をあえて使わず、高木美香さんによるアートワークを使用。少しグレーがかった紙に銀の箔押しが施された封筒状のオリジナルデザインジャケットによって、ひとつの音楽作品として生まれ変わりました。「『静かな雨』の音楽は、一筆書きのように即興でプリペアド・ピアノを演奏しました。映画本編を最初から最後まで見ながら弾いたので、映画とセッションしているような、自分も登場人物のひとりになったような気持ちでした。映画を観てもらえると直ぐに気付かれると思いますが、足を引きずる音、たい焼きを焼く金属の音、自転車が倒れる音、雨や川の音、町の音などが、台詞以上に心に響いてくる映画だと思います。これらの音と共にこの映画の世界をつくることができればとピアノを奏でたので、楽器を演奏しているというより、物音を立てているような、雨音のような、空気のような、隙間だらけの音楽になっています。スピーカーでぼんやり鳴らしてもらうと、周りの音と混じって面白い効果が現れるかもしれません。」(高木正勝)
地面を打つ雨が染みてゆきやがて地中に水の流れを作る、その循環をも描いたような音楽。配信のみでリリースされていた高木正勝による映画『静かな雨』オリジナル・サウンドトラックを、「穏やかな音楽」をコンセプトにしたセレクトCDショップ「雨と休日」の自主レーベルよりCD化。
中川龍太郎監督作品『静かな雨』(2019年公開)は、音楽が流れる時間の比率が高い映画で、その多くは環境音と音楽の中間のようなサウンドです。主人公たちのまわりに生まれる物音がすでに存在感を持っていたことから、音楽を担当した高木正勝はその物音との調和を目指しました。プリペアドピアノ(弦に物を挟むなどして音色を変えるピアノ演奏技法)の音色が特徴的であり、物音あるいは雨音のようにも聞こえるそのサウンドが物語性を広げるように映画に添えられます。はっきりとしたリズムやメロディが無い前半から徐々に美しいメロディが増えていく後半という流れが、主人公たちの葛藤や相互理解、そして覚悟を表しているかのよう。
近年のライヴ・アルバムのように感情をおおらかに発散させた作品とも、『マージナリア』シリーズとも、そしてアニメやドラマのサントラ作品ともまた違ったサウンドを聴ける本作。音響的な刺激がありつつも、1枚通して生活の中のBGMとして流すことができるでしょう。坂本龍一『トニー滝谷』や細野晴臣『銀河鉄道の夜』などと同じように「アルバムとしても聴けるサントラ」として評価されるべき作品です。
CD化に当たり、ジャケットデザインは自らのアルバムの他に森ゆに、田辺玄のCD作品のデザインなども手掛ける青木隼人が担当。映画のスチール写真をあえて使わず、高木美香さんによるアートワークを使用。少しグレーがかった紙に銀の箔押しが施された封筒状のオリジナルデザインジャケットによって、ひとつの音楽作品として生まれ変わりました。
「『静かな雨』の音楽は、一筆書きのように即興でプリペアド・ピアノを演奏しました。映画本編を最初から最後まで見ながら弾いたので、映画とセッションしているような、自分も登場人物のひとりになったような気持ちでした。映画を観てもらえると直ぐに気付かれると思いますが、足を引きずる音、たい焼きを焼く金属の音、自転車が倒れる音、雨や川の音、町の音などが、台詞以上に心に響いてくる映画だと思います。これらの音と共にこの映画の世界をつくることができればとピアノを奏でたので、楽器を演奏しているというより、物音を立てているような、雨音のような、空気のような、隙間だらけの音楽になっています。スピーカーでぼんやり鳴らしてもらうと、周りの音と混じって面白い効果が現れるかもしれません。」(高木正勝)